【産業医が教える】部下の「YES」を強要していませんか?「NO」を許容する勇気が、最強のチームを作る理由

こんにちは、産業医の本間季里です。

日々の業務の中で、上司として、あるいはチームリーダーとして、部下に指示を出したりお願い事をしたりする場面は数え切れないほどありますよね。

特に、自分自身がプレッシャーを感じている時や、組織として「絶対にやらなければならない」局面にある時。私たちは無意識のうちに、コミュニケーションにおいてある「罠」に陥っていることがあります。

今日は、上下関係があるからこそ見落としがちな、**「部下の本音とモチベーション」**について、少し深掘りしてお話ししたいと思います。

もしあなたが、「部下が最近よそよそしい」「指示は通るけれど、チームに活気がない」と感じているなら、今日の話はきっとヒントになるはずです。

無意識の「YES」期待症候群

上下関係、特に自分が「上の立場」で話をしている時、私たちは知らず知らずのうちに陥りやすい思考の癖があります。

それは、「相手からの『YES』という返事を、無意識に期待してしまうこと」です。

例えば、よくあるシチュエーションとして「急なトラブル対応」や「納期間際の急ぎの案件」で、どうしても残業をお願いせざるを得ない場面を想像してみてください。

上司であるあなたの頭の中はこうなっています。
「これは会社にとって緊急事態だ」
「クライアントが待っている」
「だから、残業するのは仕方がない」
「チーム全員で乗り切るべきだ」

論理的に考えれば、それは正論です。仕事ですから、緊急時には対応が必要ですし、周囲の人も頭では「状況的に仕方がない」と理解していることがほとんどです。

しかし、ここに落とし穴があります。

あなたが「状況的に仕方がない(=だから当然やるよね?)」と強く思っていればいるほど、その思いはノンバーバル(非言語)なメッセージとなって、相手に強烈に伝わってしまうのです。

言葉では「忙しいところ悪いんだけど…」と言っていても、目つきや声のトーン、醸し出す雰囲気が、

「断らないよね? 状況わかってるよね?」

という圧力を放ってしまう。
これは心理学的に言うと、相手の「逃げ道」を塞いでいる状態です。

「正論」が引き起こす「モヤッと感」の正体

部下の立場になって考えてみましょう。

頭では「この仕事は急ぎだ」「やるしかない」とわかっています。しかし、上司から「NO」と言わせない空気で迫られた時、人の心には何が起きるでしょうか。

「自分の都合は無視されている」
「駒としてしか見られていない」
「断る権利すらないのか」

こういった感情が湧き上がり、結果として「モヤッとする」という、言語化しにくい不満や抵抗感が残ります。
この「モヤッとする」感覚は、実はとても危険です。なぜなら、それは「納得感の欠如」だからです。

人は、自分で決めたことには全力を尽くしますが、他人から(特に逃げ場のない状態で)押し付けられたことに対しては、無意識に反発心を抱きます。これを心理学では**「心理的リアクタンス」**と呼びます。自由を侵害されたと感じると、抵抗したくなる心の働きです。

「残業して仕事を終わらせた」という結果は同じでも、

  • 「自分がチームのために必要だからやった(納得)」
  • 「断れない雰囲気だったからやった(服従)」

この二つの間には、天と地ほどの差があります。後者の積み重ねは、確実にモチベーションを削ぎ、やがては離職やメンタル不調へと繋がっていきます。

逆説のマネジメント:「NO」と言える余白を作る

では、どうすればよいのでしょうか?

ここで重要になるのが、逆説的なコミュニケーションです。
本当は「NO」と言ってほしくない時。どうしても手伝ってほしい時。

そんな時こそ、相手には「NO」と言う権利があることを認め、それを前提に丁寧に話をするのです。

具体的には、以下のようなアプローチの違いです。


× 良くないアプローチ(NOを封じる)
「急ぎの案件が入ったから、今日は残業できるよね? みんなやってるし、頼むよ」
(心の声:断るなよ、緊急なんだから)

○ 推奨するアプローチ(NOを許容する)
「実は急ぎの案件が入ってしまって、非常に困っているんだ。できれば今日中に進めたいのだけれど、あなたの都合はどうかな? もし今夜難しければ、明日の朝イチで調整する方法もあると思う。相談したいのだけれどどうかな」

このアプローチのポイントは、「相手には相手の事情(プライベートや体調、他の業務)がある」ということを尊重している点です。

「相手にも断る権利がある」と腹を括って話をすると、不思議なことに、上司であるあなたの態度から「威圧感」が消えます。代わりに「相談」や「依頼」という対等な姿勢が伝わります。

すると部下は、「自分の事情を考慮してくれている」と感じ、心理的な安全性が保たれます。

「今日はどうしても外せない用事があるんです(NO)」と言える安心感があるからこそ、「でも、明日の朝なら誰よりも早く来てやります(代案のYES)」や、「1時間だけなら手伝えます(部分的なYES)」といった、前向きな協力が引き出せるのです。

人は「尊重」された時に初めて動く

以前、私のクライアントである経営者の方が、こんな言葉をおっしゃっていました。

「人は、尊重されていると感じたときに、モチベーションが上がります」

まさに至言だと思います。
給料が高いから、役職が上がるから、それだけでモチベーションが維持できるわけではありません。

「自分は一人の人間として大切にされている」「自分の意思や都合も考慮されている」と感じる時、人はその組織や上司のために「ひと肌脱ごう」と思うものです。

「急ぎなんだから仕方がない」
それは業務上の事実です。

しかし、「相手を尊重する」
これは人間関係の真実。

業務の緊急性を盾にして、相手への尊重を忘れてしまえば、短期的には仕事が回っても、長期的にはチームは疲弊し、心は離れていきます。

まとめ:明日からできる小さな変化

もしあなたが今、部下に何か困難な要求や、急な依頼をしなければならない状況にあるなら、一呼吸置いてみてください。

そして、話しかける前に自問自答してみましょう。

「私は今、相手がNOと言う余地を心の中に持っているだろうか?」 と。
「断られても、その時は別の方法を一緒に考えればいい」

そう思って話しかけるあなたの表情は、きっと以前よりも柔らかく、そして頼りがいのあるものになっているはずです。

「NO」と言わせてあげることは、決して弱腰なマネジメントではありません。
それは、相手を一人のプロフェッショナルとして尊重する、最強の信頼構築スキルなのです。

相手の事情を想像し、尊重する。

そんな丁寧なコミュニケーションが、結果として「喜んで協力してくれる」強いチームを作っていきます。

ぜひ、次回の会話から意識してみてくださいね。

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この記事を書いた人

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本間 季里

少人数の会社でも産業医が必要な理由
産業医・伝え方コーチ:本間季里

「社員一人ひとりが健康的に働き、会社が成長していける職場を目指したい」という理念のもと、心身の健康を支える産業医です。

少人数の職場では、産業医のサポートによる健康管理や職場環境の改善が会社の成長に直結します。そこで、従業員50人未満の会社の産業医業務に特に力を入れています。

私の産業医としての強みは、傾聴、質問、わかりやすいアドバイス、的確な判断の4つのアプローチを組み合わせ、経営者と社員の支援を行っています。10年以上の経験を持ち、日立製作所、長崎大学など、幅広い業種で産業医を務めてきました。

企業規模に関わらず、経営者が経営に専念でき、社員が心身ともに健康で働ける職場の実現を目指します。

資格:日本医師会認定産業医・医学博士
アサーティブジャパン会員トレーナー
コーチングプラットフォーム認定コーチ
Gallup社認定ストレングス・コーチ

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