勝手に作り上げた「心の格差」に疲れていませんか?――人間関係をフラットにして、自分らしく生きるための処方箋

「あの人と話すと、なぜか極端に緊張してしまう」
「特定の相手の前だと、自分らしく振る舞えなくなる」
「言いたいことがあるのに、飲み込んでしまう」

もし、あなたが日常の中でこのような息苦しさを感じているとしたら、それは「自分の中で勝手に作り上げた上下関係」に縛られているからかもしれません。

職場には確かに、役職や年次といった明確な序列が存在します。しかし、私たちが人間関係で感じるストレスの多くは、そうした目に見える序列以上に、私たちの心が無意識に作り出してしまった「見えない格差」に起因していることもあります。

今日は、あなたの心を縛り付けている「心の上下関係」の正体を説明し、人間として対等で健やかな関係を取り戻すためのヒントをお伝えします。

その「上下関係」は、誰が決めたものですか?

私たちが社会生活を送る上で、「上下関係」は避けて通れないものです。

目に見える上下関係(構造上のヒエラルキー)

まず、物理的な事実としての上下関係があります。

  • 職位・役職(部長と課長、上司と部下)
  • 年齢・年次(先輩と後輩、年長者と年少者)
  • 契約関係(発注者と受注者、顧客と店員)

これらは組織や社会を円滑に運営するための「機能的な役割分担」です。指揮系統を明確にし、責任の所在をはっきりさせるために必要なシステムであり、これ自体に善悪はありません。

目に見えない上下関係(心理的なヒエラルキー)

問題なのは、この機能的な役割分担を超えて、自分の心が勝手に作り出してしまう上下関係です。

これは、相手から強制されたものではありません。誰かがルールブックに書いたものでもありません。気付かないうちに、あなた自身の心が「あの人は上で、私は下だ」と判定し、自分を低い位置に置いてしまっている状態です。

この「心の上下関係」が厄介なのは、相手が必ずしも職場の上司や先輩であるとは限らないことです。同僚であっても、時には後輩であっても、あるいは友人関係であっても、この心理的な格差は発生します。

なぜ、心は勝手に「自分を下」にしてしまうのか

では、なぜ私たちは自ら進んで自分を低い位置に置いてしまうのでしょうか。メルマガでも触れた3つの心理的トリガーを、もう少し深く掘り下げてみましょう。

①「あの人は自分よりも実力が上だから」という幻想

相手のスキルや知識が優れていると感じたとき、私たちは反射的に「人間としての価値」まで相手の方が上だと錯覚しがちです。

  • 会議で流暢に発言できるあの人
  • 語学が堪能でグローバルに活躍するあの人
  • PCスキルが高く、資料作成が速いあの人

相手の優れた部分(点)だけを見て、自分の至らない部分と比較してしまう。これを心理学では「ハロー効果(後光効果)」の一種と捉えることもできます。相手の目立つ長所が後光のように輝き、その他の部分や、あなた自身が持っている別の長所を見えなくさせてしまうのです。

しかし、実力とはあくまで「現時点でのスキルの差」に過ぎません。それは役割の違いであり、経験の差であり、得意分野の違いです。決して「人間としての優劣」ではありません。

②「あの人は自分よりも成果を出しているから」という萎縮

特にビジネスの現場では、数字や成果が可視化されます。

「彼は今期、トップセールスを記録した」

「彼女の企画が大ヒットした」

輝かしい成果を出している人を前にすると、まだ結果が出ていない自分、あるいは失敗してしまった自分が、とてもちっぽけな存在に思えることがあります。

「成果を出していない自分には、発言権がない」

「実績のあるあの人の言うことは、すべて正しい」

そう思い込んでしまうと、健全な議論ができなくなります。しかし、成果は「状況」や「タイミング」の産物でもあります。過去の成果が、今のあなたの価値を否定する材料にはなり得ません。

③「あの人は大切にされているように見えるから」という疎外感

これは少し感情的な側面です。

上司に気に入られている同僚、チームの中心でいつも笑っているあの人、SNSでたくさんの「いいね」をもらっている友人。

周囲から承認されている(ように見える)人を見ると、相対的に自分が「選ばれていない人間」「重要ではない人間」であるかのように感じてしまうことがあります。

「あの人は特別だから」

「どうせ私の話なんて、誰も興味がない」

こうした拗ねや諦めにも似た感情が、相手を「雲の上の存在」へと押し上げ、自分を「地下の住人」へと追いやってしまいます。これらはすべて、自分自身の心が作り出した幻影なのです。

ここで誤解してはいけないのは、「対等である」=「馴れ馴れしくする」ということではない、という点です。

職場の上下関係を無視して、上司にタメ口をきくことや、先輩への礼儀を欠くことが「対等」なのではありません。礼節やマナーは、社会人としての潤滑油として非常に重要です。

ここで言う「対等」とは、「人間としての存在価値に差はない」という認識を持つことです。

アドラー心理学が教える「横の関係」

ベストセラー『嫌われる勇気』で知られるアドラー心理学では、対人関係を「縦」ではなく「横」で捉えることを推奨しています。

  • 縦の関係: 上か下か、優れているか劣っているか、勝ちか負けか。
  • 横の関係: 同じではないけれど、対等である。

会社組織としての役割(社長、部長、新人)は違います。責任の重さや給料も違うでしょう。しかし、それは「機能の違い」であって、人間としての価値の違いではありません。

「役割としては上司の指示に従うけれど、一人の人間としては、自分の意見や感情を持つ権利があり、それは尊重されるべきものである」

この感覚を持つことができれば、過度な萎縮や恐怖心は薄れていきます。

相手がどんなに偉い肩書を持っていても、どんなに成果を出していても家に帰ればただの家族の一員であり、悩みもすれば風邪も引く、同じ「人間」なのです。

心の上下関係がもたらす弊害

心の中に勝手なヒエラルキーを作ったままにしておくと、さまざまな弊害が生まれます。

弊害1:パフォーマンスの低下

「間違ったことを言ってはいけない」「実力が下の自分が意見を言うなんておこがましい」と萎縮していると、本来持っている能力が発揮できません。脳が緊張状態になり、柔軟な思考が停止してしまうのです。結果として、さらに自信を失う悪循環に陥ります。

弊害2:コミュニケーションの不全

相手を上に置きすぎると、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が遅れがちになります。「こんな些細なことで時間を取らせては申し訳ない」と勝手に判断し、重要なトラブルの報告が遅れることは、組織にとって大きなリスクです。

弊害3:相手を「裸の王様」にしてしまう

周囲が勝手にへりくだり、イエスマンばかりになってしまうと、相手(上司や実力者)も裸の王様になってしまいます。対等なフィードバックが得られないため、相手の成長も止めてしまうのです。実は、あなたの過度な謙遜は、相手のためにもなっていない可能性があります。

心の上下関係を「一旦、脇に置く」ための実践ステップ

では、どうすればこの頑固な「心の序列」を解消できるのでしょうか。

冒頭にもあったように、「すぐになくすことはできなくても、一旦脇に置く」というアプローチが非常に有効です。無理に消そうとすると反発が起きますが、「脇に置く」ならできそうな気がしませんか?

具体的な3つのステップをご紹介します。

STEP 1:自分の心の動きを「実況中継」する(メタ認知)

まずは、自分が勝手に上下関係を作っている瞬間に気づくことがスタートです。
誰かと話していて、胸がザワザワしたり、言いたいことを飲み込んだりした時、心の中でこう呟いてみてください。

「おっと、今、私は勝手に相手を上に置いて、自分を下げようとしたな」

自分を責める必要はありません。ただ事実として「気づく」だけで十分です。「あ、また心の癖が出ているな」と客観視するだけで、その感情に飲み込まれずに済みます。

STEP 2:相手の「人間らしい部分」にフォーカスする

実力がすごい人、成果を出している人を見たとき、私たちはその人の「完璧な部分」ばかりを見てしまいます。そこで意識的に、相手の「人間味」を探してみてください。

  • 「あの部長も、新人の頃は失敗したことがあるはずだ」
  • 「あんなに完璧に見えるけれど、家ではだらしない格好をしているかもしれない」
  • 「昼食に何を食べるか迷っている姿は、自分と同じだな」

相手を「神格化」せず、「同じ地平に立つ人間」へと引き戻す作業です。これを繰り返すことで、過度な緊張が解け、相手の目を見て話せるようになっていきます。

STEP 3:「機能」と「存在」を分ける言葉を使う

心の中で、魔法の言葉を唱えましょう。
「役割は違うけれど、人としては対等」
「実力は違うけれど、人としては対等」

会議で発言する際も、「私なんかが意見を言うのは…」という枕詞を捨ててみましょう。その代わりに、「違う視点からの意見なのですが」「私はこう感じたのですが」という言葉を使います。

「私なんか」という言葉は、自分を下げるだけでなく、自分の言葉を聞いてくれている相手に対しても失礼になることがあります。自分を尊重することは、相手を尊重することにも繋がるのです。

自分を大切にすることは、傲慢とは異なる

日本人は謙虚さを美徳とする文化を持っています。そのため、「自分と相手は対等だ」と考えることに、どこか「傲慢ではないか」「生意気ではないか」という罪悪感を抱く人がいます。

しかし、それは大きな誤解です。

相手を見下すこと(自分が上だと思うこと)は傲慢ですが、相手も尊重し、自分も尊重すること(対等だと思うこと)は、最も健全な自尊心(セルフ・エスティーム)の表れです。

あなたが自分を「下」に置くのをやめたとき、はじめて本当の意味での「対話」が始まります。

顔色を伺って言葉を選ぶのではなく、相手のため、チームのため、そして自分のために、心からの言葉を届けられるようになります。

まとめ:その「荷物」を下ろして、軽やかに生きよう

職位や年齢といった「社会的な上下関係」は、あくまでゲームのルールのようなものです。

一方で、「心の上下関係」は、あなたが自分で背負い込んでしまった重い荷物です。

「あの人はすごい」と相手を認めることは素晴らしいことですが、そのために「だから自分はダメだ」と自分を卑下する必要はどこにもありません。

「あの人はすごい。そして、私も私で、一生懸命生きている」

それでいいのです。

もし明日、誰かの前で萎縮してしまいそうになったら、そっと深呼吸をして、心の中の荷物を体の横に「ポン」と置くイメージをしてみてください。

そして、その人の目を見て、一人の人間として挨拶をしてみましょう。

その小さな意識の変化が、あなたの表情を明るくし、言葉に力を宿し、やがてはあなたを取り巻く人間関係そのものを、温かく心地よいものへと変えていくはずです。

心の中の階段を取り払い、同じ目線で人と向き合う。

そんな軽やかな生き方を、今日から始めてみませんか?

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この記事を書いた人

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本間 季里

少人数の会社でも産業医が必要な理由
産業医・伝え方コーチ:本間季里

「社員一人ひとりが健康的に働き、会社が成長していける職場を目指したい」という理念のもと、心身の健康を支える産業医です。

少人数の職場では、産業医のサポートによる健康管理や職場環境の改善が会社の成長に直結します。そこで、従業員50人未満の会社の産業医業務に特に力を入れています。

私の産業医としての強みは、傾聴、質問、わかりやすいアドバイス、的確な判断の4つのアプローチを組み合わせ、経営者と社員の支援を行っています。10年以上の経験を持ち、日立製作所、長崎大学など、幅広い業種で産業医を務めてきました。

企業規模に関わらず、経営者が経営に専念でき、社員が心身ともに健康で働ける職場の実現を目指します。

資格:日本医師会認定産業医・医学博士
アサーティブジャパン会員トレーナー
コーチングプラットフォーム認定コーチ
Gallup社認定ストレングス・コーチ

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