「言い方が厳しい」「あの人に注意されるとみんな萎縮してしまう」
そんなふうに言われて悩んでいる。
相手の成長を願って注意しているはずなのに、なかなかうまくいかない・・・そんなことはありませんか?
こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかでも協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれることを目指します。
「言い方が厳しい」「あの人に注意されるとみんな萎縮してしまう」ような注意のしかたの反対は?
「このままだと、ハラスメントと言われやしないか」と心配になりますよね。また、相手が萎縮しているだけでなく、それを見聞きしている周囲の人達への影響も心配です。厳しく注意し、注意されている方が萎縮している、そんなやり取りを見聞きしていると、「自分も失敗したらああ言われるんだ」「自分もいつ地雷を踏むかわからない。気をつけないと」と、暗い、後ろ向きの気持ちになります。
また、あなた自身の信頼・評価という観点からも、このままの対応ではまずいですよね。
私はそんなとき、「『言い方が厳しい』『あの人に注意されるとみんな萎縮してしまう』ような注意のしかたの反対はなんですか?」と質問します。
色々な答えが返ってきますが、総じて皆さんの中のイメージは「優しく注意できること」。私が続けて「優しくとは?」と聞くと、「怒らない、腹を立てない、相手が嫌な気持ちにならない」などが出てきます。そして、「でも、甘いことが良いことじゃないでしょう!とも思うんです!!」と続きます。ここに力が入っている方が多いですねぇ(笑)。葛藤を抱えながら試行錯誤していることが伝わってきますよね。
萎縮するような厳しい言い方の反対は「甘っちょろいこと」ではない!
たくさんの葛藤に満ちた話を聴いてわかったこと。それは、「萎縮するような厳しい言い方」の反対は、「甘っちょろい言い方」と思っている人が多いということです。
だから、甘ちょろい言い方はいかん!イコール「今の言い方のどこが悪い!」という自己正当化に、結果的につながるわけです。もちろん、大きな葛藤を抱えて悩んでいることはわかります。でも、「萎縮するような厳しい言い方」の反対は「甘っちょろい言い方」と思っている人の場合、思考のプロセスを経るうちに、「だからといって甘っちょろい態度はいかん!」と360度回って、もとの立ち位置に戻ってしまうのです。
思考のプロセスがわかってくると同時に、では「萎縮するような厳しい言い方」の反対は何かということも自分なりの結論が明確になってきました。それは「言うべきことは毅然と言うが、それで留める伝え方」。
注意すべきことを注意できない、指導が必要なときも指導になっていない、相手の成長を促すことができないというのは、それが仕事の一つという人にとって、職務怠慢ということになってしまいます。言うべきことはきっぱりと言わねばなりません。
なぜ、萎縮するような厳しい言い方の反対は「甘っちょろいこと」ではないのか?これは、何に対する反対語なのか?という課題の設定によります。あなたの言い方がゴールだとすると、たしかに厳しい言い方の反対は「厳しくない言い方≒優しい言い方」になるかもしれません。しかし、この場合、注意することによって相手が成長する、同じミスは起こさないなどの、相手の行動変容がゴールです。だとしたら、「厳しくない言い方≒優しい言い方=甘っちょろい言い方」では、相手の行動が変わる可能性は低いまま。
そこで、「言うべきことは毅然と言うが、それで留める伝え方」ということになります。
「言い方が厳しい」「あの人に注意されるとみんな萎縮してしまう」伝え方の人の3つの共通点
相手が萎縮するような言い方になっている人は、共通点があります。
●話を広げる傾向
話しているうちに、「あのときもこうだった」「このときもこうだった」と過去のできごとまで話を広げていく傾向があります。
また、話しているうちに「言い過ぎたかな?」と後ろめたさを感じるからでしょうか?急に相手のことを褒めはじめ、話に一貫性がなくなることもしばしば。
あなた自身は相手を途中で褒めたことで、「叱ってばかりじゃない、褒めることも忘れなかった」と心のバランスがとれたかもしれません。しかし、あなたの思いとは裏腹に、これでは相手は混乱してしまいます。
●自分のやり方や価値観を通す傾向
どうしてもこのやり方でないと危険である、故障が起きるということもあるかもしれません。
しかし冷静に考えれば、別のやり方・進め方でも同じ成果に到達できればそれで良いということもたくさんあるはず。相手には自分が思いもしなかったやり方が見えているのかもしれません。あるいは自分が試みてもうまく行かなかったやり方を上手にやれるのかもしれません。
しかし、それを待つことができずに、気づいたときに即座に反応してしまう傾向があります。
●相手との程よい距離感がうまくつかめない傾向
距離感がうまくつかめないというより、距離感が近すぎる傾向にあります。
相手には相手の人生があります。相手の人生が自分の人生と交差することはあるかもしれません。でも、あなたが相手の人生に土足で踏み込んで良いはずありません。
あなたが相手の人生に土足で踏み込んで、相手の人生が大きく変わってしまうことだってあります。自信を失うというのが最も多いケースでしょう。この自信を失うというのはずっとあとまで尾を引きます。
言うべきことは毅然と言うが、それで留める伝え方3つのポイント
では、言うべきことは毅然と言うが、それで留める伝え方とは、どんなことでしょうか?ゴールは、相手に行動を改めてもらうとか、成長を促すということでしたね。そのゴールを目指すポイントは3つあります。
1.話を広げずに、伝えたいこと・注意したいことを一つに絞って、それだけを伝える
話を広げて、過去のことや別のケースのことにまで話を広げると、素直に聞けなくなること、あなたにも経験ありませんか?ほかにいろいろと言いたくなることはあるかもしれません。でも、今本当に伝えたいこと一つに絞って、それ以外の話はまた別の機会にしてみましょう。
2.即座に反応するのではなく、じっくりと対応する
相手には相手のやり方がある。得意不得意も異なる。「もっとこうすればいいのに」と思うことがあるかもしれないけれど、相手の成長を願うのであれば、即座に反応をするのを控え、じっくりと対応しませんか。
3.相手との程よい距離感を保つ
あなたの人生があなたのものであるのと同様、相手の人生は相手のもの。あなたの助言を受け止めるか、スルーするかは相手が決めることです。当然、相手はその結果も引き受けなくてはなりません。
言うべきことを毅然とサラリと伝えたら、あとは通常に戻りましょう。相手に何度もわかったのか確認をとったり、雑談をすることで相手の反応を見たりなどせずに、会話を終了。「伝えたかったことは以上です。あとはいつも通りよろしくおねがいします」と、さっぱりと機嫌よく切り上げます。少し経ってから蒸し返すのもご法度です。