コミュニケーションのずれ(2)

朝、職場で挨拶をしたあなたは、上司から「おはよう」と返事が帰ってきたのに1日憂鬱な気分になってしまいました。

なぜならば、「おはよう」と返事を返した上司が目線も合わさず、パソコンのモニター画面を見たままボソッとした声で、無表情のままだったからです

「私なにか悪いことしたかしら?」と、あなたは不安になってしまいます。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかでも協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれることを目指します。

冒頭の職場風景の描写は、実はあなたの職場でも日常の風景ではないでしょうか?

たった5行の風景描写ですが、コミュニケーションの観点から言うと

1)上司の側から

2)あなたの側から

たいへん示唆に富む職場のよくあるシーンです。

まず、前回の記事では上司の側からの課題のポイントをまとめました。言語情報としては「おはよう」と返事をしているのですが、非言語情報で不機嫌さが相手に伝わってしまう。このとき大切なのは「あなたが本当に不機嫌なのかどうか」は関係ないということです。そう見えている、そのことにもっと意識的になろうという話でした。

そして、今回はあなたがなぜ一日憂鬱になったのか、受け取る側の課題についてまとめます。

あなたの課題

あなたが憂鬱になった理由、それはズバリ「自分がなにか怒らせるようなことを言ったのではないか」と不安になったからです。

そしてその後のあなたの頭の中を描写すると、さしづめこんなところではないでしょうか?

「怒らせることなんかしていないはず」

「でも、自分で気づいていないミスや気づかない点があったのかも」

「いや、そんなはずはない」

「上司が家でなにか嫌なことがあったのかも」

「でも、そんなこと、職場まで引きずる??」

「だとすると、職場で何かあったってことだよね」

「やっぱり私?いやいやそんなはずないよ。」

「ああ、もう嫌だ!態度で匂わせるんじゃなくて、はっきり言ってくれればいいのに!」

「本当に、あの上司、陰険なところあるんだから!」

なぜか、はじめは自分に向いていた考え方が、上司を恨む方向に変わっている!そして、あなた自身も気づくと不愉快な表情をしている。それも、自分では気づかずに・・・

あなたの課題はつぎの2つです。

1)あなたの解釈

2)あなたが考えたところで、上司以外にはわからないはずのことにクヨクヨと時間とエネルギーを使っている

あなたの解釈があなたのつぎの行動を決める

何かを見た、聞いたなどの事実をどう解釈するかによって、次の行動が決まります。例えば犬を散歩させている人を見たときに、その事実に対して

Aさん:「わあ、かわいい!撫でたい」と感じる

Bさん「わっ!怖い!近寄れない」と感じる

この、どう感じるかが解釈です。「犬を散歩させている人を見た」という事実はAさんもBさんも同じです。しかし、それを見てどう感じ、何を考えるかはここまで違います。

この解釈は、これまで体験してきたもの、見聞きしてきたものに大きく影響されます。だから、個人個人で大きく違う部分です。例えばこの例で言えば、Aさんは昔、犬を飼っていていつも近くに犬がいた良い思い出があるのかもしれません。一方のBさんは、犬に追いかけられたとか、近くを通ると犬に吠えられて怖い思いをしたなどの体験があるのかもしれません。

この解釈に基づいて、あなたのつぎの行動は決まります。Aさんは、笑顔で「かわいい!」と言いながら犬に駆け寄っていくかもしれません。そして、飼い主との会話が始まり新しい繋がりができるかもしれません。一方のBさんは犬のいる方向を避けて別の道を通ることにしました。危険を回避するためです。

おわかりいただけたでしょうか?

冒頭の職場の例では、上司が目線も合わさず、パソコンのモニター画面を見たままボソッとした声で、無表情のまま「おはよう」と言った、という事実に対して、「私なにか悪いことしたかしら?」というのがあなたの解釈です。その解釈に基づいて、上記の思考の流れと行動(あなた自身も気づくと不愉快な表情をしている)に繋がっていくのです。

考え方の癖という前提を無視したアドバイスは意味がない

あなたは「私なにか悪いことしたかしら?」と解釈した事実も、別の人なら全く気づかないかもしれません。あるいは、「急ぎの仕事があるのかな?」「聞こえなかったのかな?」という解釈をしてくよくよ考えないかもしれません。

こういう解釈と思考のプロセス、あなたの考え方の癖という前提を全く無視して、周囲の人が

「気にし過ぎなんだよ。気にしない。気にしない」

「真面目すぎるんだね。程々にしないとあなたが参っちゃうよ」

という忠告をしたところで、あなたには響かないことがわかっていただけたでしょうか?

そこで、あなたの解釈について「本当にそれしか解釈はないのか?」と検討を加えていくことで、あなたの思考の癖を客観的に捉えられるようになります。極端な決めつけも少なくなっていきます。

コミュニケーションのズレはこのように双方のちょっとした意識の持ち方で少なくできます。非言語情報に気をつけることと、自分の理解や解釈の種類や選択肢を広げること。

ぜひお試しください。

指示を出したのにその通りに伝わらない、どう行ったら良いのか?という点に関してはまた近いうちにアップしますね。

この記事を書いた人

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本間 季里

少人数の会社でも産業医が必要な理由
産業医・伝え方コーチ:本間季里

「社員一人ひとりが健康的に働き、会社が成長していける職場を目指したい」という理念のもと、心身の健康を支える産業医です。

少人数の職場では、産業医のサポートによる健康管理や職場環境の改善が会社の成長に直結します。そこで、従業員50人未満の会社の産業医業務に特に力を入れています。

私の産業医としての強みは、傾聴、質問、わかりやすいアドバイス、的確な判断の4つのアプローチを組み合わせ、経営者と社員の支援を行っています。10年以上の経験を持ち、日立製作所、長崎大学など、幅広い業種で産業医を務めてきました。

企業規模に関わらず、経営者が経営に専念でき、社員が心身ともに健康で働ける職場の実現を目指します。

資格:日本医師会認定産業医・医学博士
アサーティブジャパン会員トレーナー
コーチングプラットフォーム認定コーチ
Gallup社認定ストレングス・コーチ

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