父の本音を聞いた夜

こんにちは。ストレスマネジメント・コーチの本間季里です。コミュニケーションの方法を少し変えたり強みを知り活かすことで自分や相手への理解を深め、個人と組織の幸福度を高めるサポートをします。

私の母は良く言えばエネルギッシュで明るい人とも言えるのですが、心のなかに大きな寂しさと不安を抱えている人だったので、周囲を振り回すことも多い人でした。一方、父は物静かで落ち着いた人で母とは対照的。私は長い間、母との関係に悩み、心をすり減らして生きてきました。自分が母に対して複雑な葛藤を抱えて生きているのだから、当然、父も同じような葛藤を抱えつつも、子供もいるし仕方がない、と諦めて生きてきた人なんだろう、と勝手に同情する気持ちで父と向き合ってきました。

父が亡くなる7年ほど前に、急に体調を崩したことがありました。元気がなくなり食欲も減退、体重も一気に減ってしまいました。当時私は遠方に住んでいたので、母からのまとまりのない話に、一体父の何が問題なのかさっぱりわからないまま時間が過ぎていきました。結局半年後に肝臓の病気だということがわかったのでしたが、診断までに父の様子はどんどん悪化し、昼夜逆転や意識障害などが現れるようになりました。

母はそんな父の様子に内心狼狽えていたのでしょう。家族に精神的に依存している人でもありましたから、頼っている自分の夫がどんどん変わっていくことに不安や恐怖もあったと思います。私が両親の様子に驚いて、自分が当時住んでいた、実家からかなり離れた自分の部屋に両親を呼び寄せてから数日後、母が私を非難して私と父を置いて出ていったことがありました。もちろん出ていくまでにもすったもんだはあったのですが、母が出ていったその夜、父と二人になったので思い切って長年の疑問(父も同じような葛藤を抱えつつも、子供もいるし仕方がない、と諦めて生きてきた人なんだろう)を父に聞いてみました。

私のこれまでの母に対する深い葛藤や複雑な思いなどを話して、「お父さんも同じだったんじゃない?」と聞くと、やや掠れた声で「そんなことないよ。お父さんはね、お母さんと一緒になって本当に幸せだった」と言いました。「お父さん、そんな建前を言う必要はないよ。家族は今まで散々振り回されてきたし、私は本当に苦労してきた」と促すと、「いや、それは違うよ。私は本当に幸せだった。お母さんと一緒にならなければこんな人生は見せてもらえなかった。だから本当に幸せだと思っているんだよ」、そして「お母さんがそういう人ならなおのこと、優しくしてあげなくちゃいけないだろ?それが人の道ってもんだよ」

私は予想外の父の言葉を聞きながら、父が寝ているベッドの上にポトポトとたくさんの涙をこぼしていました。

そのあと、母は一体どこに行ったのだろう、と私がつぶやくと、父は「家に戻ったんだよ。数日で帰ってくる」と予言するではないですか!まさか、あれだけの言い合いをして啖呵きって出ていって!と私は信じませんでしたが、なんと、父の予言通り、一旦自宅に戻った母が、3日後に再び遠路はるばる飛行機に乗って私と父がいる部屋に戻ってきたのでした。その一ヶ月ほどあと、父は重体に陥り一週間ほど意識がない状態になりました。回復するかどうかもわからなかったので、そのときに母にこの話をしました。母はうなだれて静かに泣き、「どうしよう」と小さくつぶやきました。「どうしよう」に込められた意味を、私は隣りに座って噛み締めていました。

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この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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