使う言葉の変化は考え方の変化

一人のクライアントと長く関わっていると、思いもよらない大きな変化に出会うことがあります。そして、その変化を感じる最初は、私の場合、相手の使う言葉が変わってきた?というちょっとした弱いシグナルです。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれるまでしっかり寄り添います。

そのクライアントを高田さんとしましょう。

高田さんは長年、会社を休みがちでした。出勤をして業務に当たれば非常に力を発揮してくれるし、成果も出す。でも、いつ出勤するのか休むのかわからないために業務を振るのもためらわれる。まあ、職場としては当然ですよね。

そんな状態で出会いました。

私はもともと、高田さんが今日出勤したとか、昨日は休んだとか、そんな話を聞いても仕方がないと思っていました。出勤するとか休むとということは結果であって、その向こうに原因があるからです。

はじめはふてくされた様子だった高田さんでした。どうせ休んでいる自分が悪いんです、とでも言いたげな態度。まあ、気持ちはわかります。面談も職場から言われたから仕方なく来ているので、多分気乗りがしなかったのでしょう。何かと理由をつけては延期となることがありました。

好きなこと、趣味、子どもの頃の話、将来の夢など徐々に面談の中でも話題が増えていきました。

半年ほど経ったころでしょうか?

高田さんが「いやぁ、今月は3日も休んじゃいまして・・・」と小さな声で言いました。

「そうですか。3日も休んじゃったんですね」と私は繰り返しながら、弱く、でもピンとこの言葉がアンテナに引っかかりました。

いままで、月に3日どころか半分くらい休んでいたことだって珍しくなかった高田さん。

なのに「3日休んじゃって」

今までは今月は何日休みましたなどという勤怠の報告はいちいちしていなかった。ふぅうん、なのに、3日休んじゃって、ねぇ・・・

ということは、あえてこのことを言いたかったのだな。

3日以外の日は出勤しましたよ、ということを伝えたかったわけだ。言わなかった部分にこそ、本当に伝えたかったことが含まれている。

私はこのときにはさら〜と流して次の話題に移りました。一回の変化をいちいち取り上げるのを嫌う人もいるからです。よくドラマで、普段お礼を言わない人が意を決してお礼を言ったとき、「お礼を言いましたね!いつも言わないのにお礼言いましたよね!」というセリフを言っている場面がありますが、いつも私は残念な気持ちでその場面を見ています。「こんなふうに強調されたら、またもとの殻に閉じこもっちゃうじゃないか。それが人間ってもんだろう!こういうときはサラリと流すんだよ」まあ、そんな気持ちからこのときはサラッと流しました。でも、心のなかでは「何かの変化?」という可能性を感じながら。

毎回ではないにせよ、休んだ日数を報告すること増え、いつしか使う言葉が「コンスタント」に変わっていきました。コンスタントに出勤できている、コンスタントに仕事ができている、そんな感じです。変化は確実に起きていました。あとはそれを邪魔しないのが私の役目です。

一年半くらい経ったでしょうか。高田さんはもう、休まず仕事に来るのが当たりまえ。それこそ、コンスタントな仕事ぶりに戻りました。

高田さん自身は言語化が大変苦手なので、自分に起きた変化をうまく言語化できませんでした。なにがきっかけだったのか、どういう気持ちの変化があったのかなどは今もわかりません。

ただ、あの瞬間私が感じた、弱く小さなシグナル「使う言葉が変わった」というのは本当でした。

使う言葉は脳内で考えたことそのものなので、言葉が変わるということは脳内で考えていることが大きく変わったということにほかなりません。

なぜあのとき「3日しか休みませんでした」ではなく、「3日休んじゃって」だったのでしょうか?これは私の推測ですが、高田さんご自身、とても誇らしかったのではないでしょうか。子どもが「見て、見て!」というように、「3日しか休まなかったんだよ!」と言いたかった。でも、そう言うのは気恥ずかしかった。だから「3日も休んじゃって」という、ちょっと変化球の表現をしたのではないかなと思っています。

ほかにも、行動が変わることに先行して使う言葉が変わったという経験はいくつもあります。ただ、その変化はとても小さいもの。周囲の人の言葉の変化に心の中でそっとアンテナを立ててみませんか?

この記事を書いた人

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本間 季里

少人数の会社でも産業医が必要な理由
産業医・伝え方コーチ:本間季里

「社員一人ひとりが健康的に働き、会社が成長していける職場を目指したい」という理念のもと、心身の健康を支える産業医です。

少人数の職場では、産業医のサポートによる健康管理や職場環境の改善が会社の成長に直結します。そこで、従業員50人未満の会社の産業医業務に特に力を入れています。

私の産業医としての強みは、傾聴、質問、わかりやすいアドバイス、的確な判断の4つのアプローチを組み合わせ、経営者と社員の支援を行っています。10年以上の経験を持ち、日立製作所、長崎大学など、幅広い業種で産業医を務めてきました。

企業規模に関わらず、経営者が経営に専念でき、社員が心身ともに健康で働ける職場の実現を目指します。

資格:日本医師会認定産業医・医学博士
アサーティブジャパン会員トレーナー
コーチングプラットフォーム認定コーチ
Gallup社認定ストレングス・コーチ

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