産業医・伝え方コーチの本間季里です。
互いにさん付けで呼び合う職場
私が産業医として関わっている会社のいくつかでは、全社員が「さん付け」で呼ぶようにしています。
だから産業医である私も「本間さん」と呼ばれています。部長も課長も新入社員も、みな等しく、さん付けで呼ばれます。
私はこれには少なくと2つのメリットがあると感じています。
一つは、無駄なエネルギーを使わずに済むということです。
もう一つは、対等な関係を築きやすくなるということ。
少していねいに説明をしていきましょう。
無駄なエネルギーを使わずに済む
メリットの1つ目は、余計なことにエネルギーを割く必要がなくなるということです。
私が大学医学部で教員をしていた前職のとき、相手がお互いの呼び方をどうしたら良いかと、目まぐるしく頭の中で考えている場面によく遭遇しました。
例えばこんなことです。
大学の医学部には医師もいますが医師でない人もたくさん教員として働いています。獣医学部、薬学部、工学部などなどです。教員だけでなく研究員をはじめとして多様な職種の人もいます。
教員や医師なら迷わず「先生」と呼べば良い。でも、研究員だったら?この人は医師なのだろうか?それとも他学部出身なんだろうか?
はじめ私のことを「本間さん」と呼んでいた人が、他の人から「この人はお医者さんなんだから、そんな呼び方は失礼よ!」とたしなめられ、平身低頭謝られたことも何度もあります。
私は逆に大変居心地が悪い思いをしたものです。
それってとても面倒くさい。そしてそんなところに限りある脳のエネルギーを使うのは無駄←と思いませんか?
だからはじめからみんな「さんづけ」で呼ぶのは、非常に合理的なのです。
もし、「さんづけ」ですごく嫌な顔をする人がいたら、その時はていねいに謝って、可能ならその人とはそっと距離をおきましょう。

対等な関係を築きやすくなる
メリットの2つ目は、互いに同じ「さん付け」で呼ぶことで、対等な関係を築きやすくなるということです。たかが呼び方、されど呼び方なんですよ!
仕事ではとくに職位の差はあるけれど、それは仕事をスムーズに進めるために役割分担や、責任の範囲を明確にしたもの。人としての上下の話ではない。
誰とでも同じようにていねいに対等に接することで、萎縮せずに意見が言いやすくなる場を作っていける。
それはプライベートでも仕事でもとても大切なことですよね。
特に仕事では、問題に気づいた人が問題の芽の段階で「ちょっと気になること」として上げておけば、早めに対処できるようになります。
また、それが問題に発展しなかったとしても、対等な関係が作られている場であれば「気になることを早めに上げてくれたからこそ、みんなで気をつけることができた」など、ポジティブな意見が出やすくなります。
たかが呼び名、されど呼び名
実際に私が以前お話を聞いた会社では、社員全員、互いに「さん付け」で呼ぶようになってから、いろいろな社内改革はうまくいくようになりました。
例えば長時間労働はなくなった一方で、不思議なことに業績は上がったという話を聞きました。
業績というのは必ずしも労働時間に比例するわけではないということはあちこちで言われることですが、本当だったんだなと感心しました。
ついつい相手を呼び捨てにすると、その後に少々乱暴な言葉が続きやすくなります。それを見聞きする人のなかには「ハラスメント」と捉える人が出てくる可能性もあります。
一方で、「さん付け」で呼び合うと、その後に急に語気を荒げて話をしにくい。
ハラスメントというリスクを回避することもできるのではないでしょうか?