こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれるまでしっかり寄り添います。
コロナ禍で少なくなったとは思いますが、友人同士で食事に行こう、遊びに行こうという話になったとき、「気が進まないな。今日は断りたいな」というときありますよね。そんなとき、その場をうまくやり過ごすために、嘘の理由を言うこと、ありませんか?
例えば
あなた「今日は用事があるから」
友人「なんの用事?変更できないの?」
あなた「ちょっと無理かも」
あなた「ちょっと体調が良くないので」
友人「え?そうなの?どこが悪いの?」
あなた「う〜ん、だるいかな〜」
友人「お大事に」
嘘は絶対にいけない!と言うつもりはありませんが、2つの理由であまりおすすめはできません。
1)相手が身近な人であればあるほど、嘘を言うことで、あなたは心理的に負担を感じてしまいます。自責の念とも言います。それは自覚的には微かなものかもしれません。でも、こういうことが重なると、本当は自分が嘘の理由を言って断るという選択をしているのに、こういう状況を作り出した相手を恨むようになります。例えば、「〇〇さんがしつこく誘うから、、、もう辞めてほしいわ。毎回嘘の理由を言わなくちゃならなくて、こっちだって気分悪いわ」のように。
2)一度嘘を言うと、後で同じ話題になったときに辻褄が合っていないといけなくなります。つじつま合わせをすることにエネルギーを使ってしまい、思いの外消耗してしまうものです。こういうことでエネルギーを消耗してしまうのはもったいないことですよね。そんなことにエネルギーを消耗するくらいなら、もっと他の大切なことにそのエネルギーを振り分けたいですよね。
そんなとき、サラリと嘘のない断り方ができると気持ちが楽ですよね。
でも、これまで本当の理由を言えなかったから、しかたなく嘘の理由を言ってその場をしのいできたわけです。したがって、「本当の理由を言ってみませんか?」と聞いて、「はい、そうですね。次回からそうします」とこころで思っても、行動に移せる人はまずいません。
そこで、大切なのは練習の場で、まずは言葉に出して言ってみるという体験です。頭の中でイメージするだけではなくて、実際に言葉に出して言ってみる。実はこの両者の間には大きな壁があって、イメージできても言葉に出して言ってみるということはハードルが高いものです。これをするのがセミナーや研修でのロールプレイです。
以前ある研修で、「いつもは嘘の理由を言っています」という参加者がいらして、「では今日は練習ですから、気が進まない本当の理由を伝えてみましょう」と促しました。
その方は、今日は一人の時間を持ちたいからという理由だったので、しばらく考えたあと、
「今日はひとり時間の日なので、帰りますね。次回また誘ってください」
とさらりと答えました。その爽やかさに会場からどよめきが起きました。このどよめきはポジティブなどよめきで、皆さん驚きの、でも笑顔の表情を見せていました。
それまでその方は、「一人で過ごしたいから」などという理由はわがままだ、言ってはいけないことだと感じていたそうです。実際に言ってみて「これからも言えそうです」と自信が出たようでした。
このように、私のセミナーや研修では実際の場面を想定して言葉に出していってみるロールプレイを行ないます。実際にその後、言いにくかった場面で、本当に自分が伝えたかったことを伝えられ、顧客と良い関係が築けた!というご感想も頂いています。
数年前のNHKのドラマ「これは経費で落ちません!」でも、同じような状況で、主人公が夜の会食を断るシーンがありました。「今日は、孤独を楽しむ日なので!」と静かに、でも何度言われてもきっぱり。
すべての場面で本当の理由を言わねばならないというわけではありませんが、サラリと本当の理由を言えると素敵ですね。そのためにも、自分のほんとうの気持ちをしっかりと掴んでおくことは大切ですね。