言葉にして伝えることの意味

コロナ禍になってからオンラインでのセッションや研修、在宅勤務が一般的になりました。私たちはこれくらいの大きなできごとがないと、働き方を大きく変えるということができなかったでしょう。人間は形状記憶合金のようなもので、基本的には変化を望まず、東京オリンピック程度の短期間の在宅勤務推奨くらいでは、あっという間にもとに戻って、いまでも満員電車で通勤という働き方のままだったと思われます。

その後あちこちで「出社して顔を見て話をしているなら相手の感情とか読み取れるけれど、オンラインで声だけとか、ビデオオンでも表情を正確には読み取れないから、コミュニケーションが難しい」という声があがりました。

産業医をしていて、体調不良の原因として本人から、上司から、人事から、同じ言葉が繰り返されました。私はそういう人もいるでしょうけれども、本当にそうかな?と疑問を感じてきました。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれるまでしっかり寄り添います。

第一に、コロナ禍前は「相手の表情から感情を読み取り、本当に良好なコミュニケーションが取れていたのか」という疑問。ほとんどの場合、答えは「否」ではないでしょうか?

「出社して顔を見て話をしているなら相手の感情とか読み取れるけれど、」というのはご本人のそうだったと思いたいという願望なのではないかと推測せざるを得ないケースはたくさんあります。すなわち、決して表情から相手の気持ちを上手に汲み取り、ていねいな対応をしていたかというと、必ずしもそうではない。

結局、コロナ禍前もあとも、コミュニケーションが上手でない人はやっぱり上手ではなく、うまくいっているところは一過性にコロナ禍に入ってうまくいかなくても、しばらく経ってやはり工夫を繰り返しうまくいくように変化できた、ということではないかと感じます。

第二に、人は、表情から「喜んでいるだろう」と思えば、それが確信となって自分の中に根付くのか、という疑問。「思う」というのは自分が「そうだろう」と推測することであり、そのとおりかどうかはわかりません。それなのに、表情を見ただけで「今回の資料は合格だったと上司は喜んでいる。こういう資料作成で良かったのだ。今後もまずはこのレベルのものを作成すれば合格だ」と確信を持てるものでしょうか?

上司が資料を手渡されたとき、嬉しそうな(そう見える)顔をすれば「これで良かったのだ。上司は喜んでいる」と一時的には思えるかもしれません。でも、大切なことは「確信できるかどうか。その確信が持続するかどうか」ということです。

その上司が、資料を手にした直後に、つまらなそうな表情をしたのをあなたが見たとしたら、あなたはどう感じるでしょうか?

「あれ?満足していると思ったのは気のせいだったのかな?」と自分の判断がゆらぎませんか?

上司にとっては嬉しそうな表情も、つまらなそうな表情も、実はさしたる意味はないのかもしれません。でも、あなたはその表情にいちいち意味をもたせようとする。そして一喜一憂してしまう。あなたの単なる推測を、コミュニケーションだと勘違いしているだけではありませんか?

だから、対面なら相手の表情からいろいろと読み取れるのでコミュニケーションは取りやすいというのは、実は多くの場合、幻想ではないかというのが私の意見です。もし、オンラインで相手が感じていることが伝わりにくければ、「なんだか今の声、納得していないって感じだったけれど、もう少し話をしたほうが良いかな?」と一言聞いてみればいいだけのことです。それができないのは、あなたのコミュニケーションのやりかたの問題であって、オンラインのせいじゃありません。多分、そう聞ける人は対面でもオンラインでも聞くでしょうし、聞けない人は対面でもオンラインでも聞かない、そういうことではないでしょうか?

実は私たちは、表情とともに「この資料はわかりやすくてよかったよ」「あなたの資料は図表の使い方がとてもいいね」などの言葉によるやり取りがなければ、(上司は喜んでくれているという)推測は確信には変わりません。だからこそ、言葉で一言感想や気持ちを相手に伝えることが重要なのです。確信に変わって初めて、私たちは「これで良いんだ。」と今度は自信へと変化していきます。

自信を持てれば、次からは自信を持ってそのレベルを保つような行動ができるのです。

忙しかったとしても、気持ちをここに引き戻し、言葉を添える。そのひと手間をかけることで、相手が次から自信を持って動けるようになり、あなたは少しずつあとが楽になっていきます。

言葉を添えて、相手の自信を引き出しませんか?

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キンドル出版しました

産業医として、伝え方コーチとして、毎日たくさんの方の話を聞いてきた経験を元に、「自分が疲れない話の聞き方のポイント」についてまとめた本です。
相手の役に立ち、親身に寄り添うことで、温かい関係性を作りながらも自分が疲れずに関わっていくためのコツが書かれています。
特に、身につけるスキルよりも、手放すとうまくいく考え方に多くのページを割いて、わかりやすい事例とともに解説しました。

この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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