コミュニケーションのずれ(1)

朝、職場で挨拶をしたあなたは、上司から「おはよう」と返事が返ってきたのに1日憂鬱な気分になってしまいました。

なぜならば、返事を返した上司が目線も合わさず、パソコンのモニター画面を見たままボソッとした声で、無表情のままだったからです

「私なにか悪いことしたかしら?」と、あなたは不安になってしまいます。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかでも協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれることを目指します。

冒頭の職場風景の描写は、実はあなたの職場でも日常の風景ではないでしょうか?

たった5行の風景描写ですが、コミュニケーションの観点から言うと

1)上司の側から

2)あなたの側から

たいへん示唆に富む、職場のよくあるシーンです。

まず、この記事では上司の側からの課題のポイントをまとめます。そして、次回はあなたがなぜ一日憂鬱になったのか、受け取る側の課題についてまとめていきます。

上司の課題

上司のこの態度、「なにがいけないの?」と思った方もいたかもしれません。

実際「仕事をしながらでも、私は部下の話をしっかり聞いていますよ。だからずっとこういう態度を続けていれば『これがこの課長のやり方、個性なんだ』とわかってもらえるものじゃないんですか?」と言われたことがあります。

答えは「No」です。というより、このとき単にNoと言うのではなく、全力で「違う!!!」と叫びました。ほんの数年前の話なので、今でもこういう認識の人は多いのかもしれません。

冒頭の上司の課題は、「自分の非言語情報に関して無頓着」ということです。

非言語情報とは何か?

コミュニケーションには、相手に伝える言葉そのものの「言語情報」と、言葉以外に伝わるものの「非言語情報」があります。

冒頭のシーンで言えば、あなたが「おはようございます」と挨拶したことに対して、上司が「おはよう」と返してきたのが言語情報です。

一方、上司の態度「目線も合わさず、パスコンのモニター画面を見たままボソッとした声で、無表情のままだった」というのが非言語情報です。

非言語情報はなぜ重要なのか?

この冒頭のシーンをまとめると、

  • 言語情報:あなたの朝の挨拶に対して「おはよう」と返している。
  • 非言語情報:態度や表情、声のトーンなどは、通常人が朝の挨拶で期待するものとは異なり、目線も合わさず、パスコンのモニター画面を見たままボソッとした声で、無表情のまま。

言語情報と非言語情報に大きなズレが生じていることがわかります。このように、言語情報と非言語情報がズレている場合、私たちは非言語情報を信じることが圧倒的に多いのです。だから、冒頭のあなたは一日憂鬱な気持ちになりました。

このように、上司は「ちゃんとおはよう、って挨拶を返したじゃないか」と言ったとしても、非言語情報で不機嫌そうなメッセージを送っているのです。

非言語情報は自分では気づけない

こういう話をすると簡単に「非言語情報の重要性を理解しました。これからは自分の非言語情報に気をつけたいと思います」と言う人がいます。でも、あなたは自分の非言語情報が相手にどういうメッセージを送っているか把握できていますか?あるいは今後どうやってそのことに気づき、修正していきますか?

実は自分が無意識に発しているメッセージに、自分ひとりで気づくことはできません。

あなたの顔のことを考えてみてください。自分が意図して「目が2つ、こことここに」「鼻は目の間に縦にこう」「鼻の下に横に口をこのくらいの大きさで」とデザインしたのなら自分たちの顔を鏡に映さなくてもわかるかもしれませんが、鏡の存在がなければ正確に自分の顔を認識することはできません。

それと同様、鏡に映さなくては自分の非言語情報の癖に気づくことはできません。では、鏡とは?文字通りの鏡でも不満そうな表情を映し出してくれるかもしれませんね。が、人間とは悲しいもので不満そうな顔を見たとしてもあらゆる言い訳が出てくるだけ。

例えば、

「忙しんだから仕方ないでしょ」

「あの部下、昨日大失敗したのに平気な顔しているんだもの」などなど。

ですから、鏡を見たとしても自分自身へのフィードバックにならないことが多いものです。

では、鏡ではなく鏡の役割をしてくれるもの。それは他者からのフィードバックです。単に真剣にパソコンで調べ物をしていただけなのに、「なにか怒ってます?」と言われて、自分が発するメッセージに気づくことができます。

職場でそんなこと言えませんよ!!ですか?

そういうフィードバックができる職場を作っていくことこそ、コミュニケーションが良い職場への一番の近道ではないでしょうか?

今日は、コミュニケーションのズレが起きる原因の一つは、自分の非言語情報には自分では気づけないからということでした。

次回はもう一方の受け取る側の課題について考えます。

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この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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