「私がやったほうが早い」と思ったら考えるたった一つのこと

仕事で後輩に、家庭で子に、何かを教えようと思ったときに「自分がやったほうが早いから、自分でやってしまおう」と思うことはありませんか?

産業医面談をしていると、先輩や上司の立場の人から頻繁に「私も忙しい。教えなくちゃと思うけれど、それより自分でやったほうが早いんですよ」という声を聞きます。

「それに、教えてもらおうじゃなくて、自分から質問をしてくるべきじゃないですか?」とも。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。限りあるエネルギーを本当に大切なことに使うためのコツをお伝えしています。中心はコミュニケーションや上手な時間管理・習慣化。

特にコミュニケーションでは、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴うなかでも協調していくための伝え方のコツをご提案しています。「頭でわかった」ではなく、実際に身につき日常で使えることを目指します。

「ここでひと手間」、はじめに腹を決める

私は前職では大学教員として基礎研究や学生の教育に携わっていました。当時、学生が、わたしたちのような基礎研究をしている研究室に3ヶ月ほど配属されて、私たちと一緒に研究活動をするというカリキュラムがありました。

私は学生と一緒に活動したり、学生と話をしたりするのが好きだったので、毎年このカリキュラムが楽しみでした。

私は初めての実験などはこと細かく指導することにしていました。それをしていると自分の研究の手を一定期間止めなくてはいけません。研究をする身としては葛藤が生じます。

しかし、ここで腹を決めることが大切。しっかりと時間をとって、すべての手順を一緒にやって見せました。こうやって実験を教えると、一通り教えたあとは学生が一人で実験を進められるようになります。

結局、そのほうが学生も自信を持つし、私も楽になります。そして学生が一人で実験を進められるようになると、私自身も自分の研究に集中できるということがわかってきました。

多くの人が「ここでひと手間」をやらない理由

ただ、残念なことに多くの人はそれをやろうとしません。なぜでしょうか?

「自分がやっていることが一定期間中断されてしまう」

「自分がやったほうが早い」

「慣れないやり方を見ているとイライラする」

「あとでチェックをしないといけないから、結局二度手間になる」

こんなことろでしょうか。

でも、あなたもそういう手間ひまをかけてもらって今がある。

確かに一時的に効率は下がる。一時的にイライラする。一時的に二度手間になる。

でも、こういう人が忘れていること、見ないふりをしていることは・・・

一定期間しっかり教えると、その後は自立できるようになるということ。

これと同じことがあちこちで起きている!

家庭では「子どもに教えてやらせるより、自分がやったほうが早い」

職場では「部下に教えてやらせるより、自分がやった方が早い」

あなたもこのセリフ、言っていませんか?

でも、一時的に効率や生産性は下がっても、経験を積んでもらえばいずれ戦力になっていきます。そうすれば自分も楽になっていくはず。ただ、そのプロセスでは一時的に効率や生産性は下がるという若干の我慢が必要です。

一方、「自分がやるほうが早いから」と教えることもなく、ずっと自分がやっていたとしたら、いつまでたっても戦力は自分だけ。楽になることはないばかりか、「いつまでたっても部下が戦力にならない」と不満を募らせることになるので、ストレスは増大していきます。

プロジェクトが人が足りないからと、新しいメンバーを投入したときなども同じですよね。新しく参入した人たちに教える期間がどうしても必要になります。

だから、一時的に生産性は下がります。そこを予測する、あるいは我慢できない人が非常に多い。この期間は投資の期間と定義する必要があります。そのように共通認識を形成する必要もあるでしょう。

急がば回れ。昔の人はうまいことを言ったものです。

前職でみっちり教えた学生のその後

冒頭の学生は結局どうなったかって?

はい、2週間後には一通り実験を覚え、毎朝計画を確認するだけで、自分で実験を進められるようになりました。

私は私で自分の実験を進められたので、2人体制で研究を推進するということができました。これは一人の特別な学生の話ではなく、毎年私のところに配属された学生の話です。中には一緒に論文を書いた学生もいたんですよ。

大げさに言えば、こちら側が丹田に力を入れて、2週間はみっちりと学生に実験を教えると決める。その覚悟、ひと手間が大切なのではないかと感じます。

「自分がやったほうが早い」そんな言葉が浮かんだら、ここでひと手間かけたらあとが楽になる、と踏みとどまってみませんか?

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この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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