自分の言葉に責任を持つ

昔、研修医と言うほど経験不足でもなく、中堅の医師として医局を支えていますというほどの経験でもない、なんとも中途半端な時期がありました。これはどんな仕事でも同じですよね。

そろそろ一人でできる仕事の領域も増えていく。

でも新しいことに対して今までの経験を組み合わせて、柔軟に対応できると言うほどでもない。

そんな時期のことです。

突然、医局の上の先生から、遠方の公立病院に1年応援に行ってほしいと言われました。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方をご提案します。「頭でわかった」ではなく、実際にやれるまでしっかり寄り添います。

若手医師だった頃の出来事

高速道路を使って車で1時間ほどかかるところです。私はその病院に1年、応援に行くこと自体は全く問題ありませんでしたが、医局からの要請は病院内の官舎に常に待機しているようにというものでした。

当時私は、自分の研究テーマに沿って毎日実験をしていました。実験は官舎にいてはできませんし、何より、その病院で一緒に働くことになった医師が「別に官舎に住まなくても良い」と言ってくれているのに・・・

当時、病院ごとの事情やら、私達の小児科という事情やらいろいろとあったのは確かでしたが、それに対しての対応策は当然考えられるくらいにはなっていたので、そこで私と常勤の医師とで、お互いに了解をとっていたのです。

しばらくして、官舎に住むつもりはないことが伝わったのでしょう。先輩医師2人から呼び出され、再度、官舎にいつも待機するよう言われました。そこで、私は、すでにその病院の医師とも話をして、了解をとっていることを告げました。

「イエスと言ったらノーってことなんだよ」

その時驚いたことに、先輩医師のひとりがこう言ったのです。

「あの先生はね、イエスと言ったらノーってことなんだよ。大変、奥ゆかしい先生で、遠慮深いの。だからあなたに官舎に常時待機しなくてもいいと言ったということは、常時待機してほしいってことなんだよ!

大の大人が、非常に真剣に、口角泡を飛ばして私にこう言ったのです。私はポカーンとしたあと、思わず笑ってしまいました。

今の私なら「あなた、自分の言っている日本語の意味、わかってます?」くらい、笑いながら言ったでしょう。
当時の私がその場でどう言ったのか、記憶にありません、残念!!

これって、とても日本的なエピソードだと思うのですがいかがですか?

例えば、先輩医師が言う通り、その先生が大変奥ゆかしくて、イエスをノーと言ってしまう方ならば、申し訳ないけれど「ノー」がその先生の意志だということになります。

いい大人が発した言葉の裏側を、こちらが忖度して差し上げるのも限界があるし、そんな忖度するエネルギーがあるなら、そのエネルギーを別の大切なところに使ったらどう?

そんなときに私達は「一体どっち向いて仕事してんだよ!!」と言いたくなるのでしょう。

自分が発した言葉こそがその人の意思

いい大人なら、自分が発した言葉こそがその人の意思ということになる。そのときに、先輩医師2人から詰め寄られて、私が強烈に感じたことです。

●だからこそ、自分の本心を見極め、あまり本心とかけ離れたことを言わないようにする。

●口を開いたら、本心とかけ離れたことを言わねばならないようなときには、あえて言葉を発しないという選択肢も用意する。

そう意識することも大切です。

結局、先輩医師は私に「あなたがそこまで言うなら、医局に諮りますよ。あなたの考えが間違っていて、私が正しいということはその場で証明されると思うよ。そのときにあなたの立場はなくなるんだよ」と言いました。

私がどう返事をしたのか覚えてはいないのですが、次の医局の集まりまで憂鬱でした。それまでどう過ごしたのかも記憶にありませんが、結局、次の医局の集まりでその話は出ませんでした。

もうひとりの先輩医師が説得してくれたのか。他の力が働いたのかは私には知る由もありませんでした。

発した自分の言葉に責任を持つことが大切

いま、伝え方の専門家として考えると、もっと建設的に先輩医師と話し合うこともできたなとは思います。

ただこの経験から得たことは、いい大人なら、自分の言葉に責任を持つためにも、自分の本心とかけ離れたことは言わない。すなわち、自分の気持ちに正直に発言することや、もし正直に言えなかったときは発した言葉に責任を持つということは大切なことかなと思います。

その遠方の病院の先生の名誉のために言っておきますが、その先生が本当に「イエスと言ったら、ノーってこと」なのかどうか、真偽は未だに定かではありません。実は一年間、コミュニケーションも良好で、一緒に働いて困ったことはありませんでしたよ。

この記事を書いた人

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本間 季里

少人数の会社でも産業医が必要な理由
産業医・伝え方コーチ:本間季里

「社員一人ひとりが健康的に働き、会社が成長していける職場を目指したい」という理念のもと、心身の健康を支える産業医です。

少人数の職場では、産業医のサポートによる健康管理や職場環境の改善が会社の成長に直結します。そこで、従業員50人未満の会社の産業医業務に特に力を入れています。

私の産業医としての強みは、傾聴、質問、わかりやすいアドバイス、的確な判断の4つのアプローチを組み合わせ、経営者と社員の支援を行っています。10年以上の経験を持ち、日立製作所、長崎大学など、幅広い業種で産業医を務めてきました。

企業規模に関わらず、経営者が経営に専念でき、社員が心身ともに健康で働ける職場の実現を目指します。

資格:日本医師会認定産業医・医学博士
アサーティブジャパン会員トレーナー
コーチングプラットフォーム認定コーチ
Gallup社認定ストレングス・コーチ

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