先回りする大人たち

時々話していますが、私の前職は大学医学部の教員でした。毎日、基礎研究や学生の教育に携わっていました。

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。限りあるエネルギーを本当に大切なことに使うためのコツをお伝えしています。中心はコミュニケーションや上手な時間管理・習慣化。

特にコミュニケーションでは、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴うなかでも協調していくための伝え方のコツをご提案しています。「頭でわかった」ではなく、実際に身につき日常で使えることを目指します。

一言も質問することなく疑問点を解決した学生

ある年、面白い学生の行動に気づきました。その学生は実験を教わっているときに、しばしば手を止めて、ニコっと笑顔でこちらを振り向くのです。

私は学生が言葉で質問をしてくるまで黙って待っていました。しかし、周囲にいた他の教員が、学生の質問を「察して」「先回りして」助け舟を出してしまっていました。

その学生は、またしばらく実験を進めて、ふと手を止めてニコっと笑って教員の方を振り向きます。他の教員が気づいて助け舟を出します。

結局その学生は一言も言葉を発することもなく、疑問を解決して実験を進めていきました。

先回りは良い指導なのか?

そして、学生実習など大勢の学生を対象にする授業のときも同じことが行われていることに気づきました。

実習中は、教員が実験台の間を移動しながら適宜質問に答えたりしていました。学生は、近くの教員の方を向いてニコッと目線を合わせると、質問を聞くこともせずに教員が先回りして答えを与えてしまう。

私たち教員ももとは初心者だったので、学生がどこで疑問を感じて手が止まったのか、当然予想はつきます。だからといって、こんなふうに先回りしていいものだろうか?

自分の困りごとは察してもらうのではなく、言葉で伝える

学生といえどもいい大人なんだから、自分の言葉で教員に質問をし、教員も言葉で説明をする。言葉を介したやり取りがなければいけないのではないか?

今のままでは、泣き叫んでいる赤ん坊の声を聞いて、「よしよし、今、おむつを替えてあげるからね」と察していることとまるで同じではないか!

私はそれから、学生がどこで困っているのか当然わかるけれども、疑問や質問は言葉で伝えない限り、答えないということをその学生に伝えました。

同時に、周囲の教員には「親切は本当にありがたいけれども、学生には疑問や質問を言葉で伝えるということをしてほしいので、察して助け船を出すのは控えてほしい」ということをお願いしました。

もうあなたは気づいたかもしれません。その学生たちはほんの数日で、疑問や質問を言葉で伝えるようになっていきました。単に周囲の大人が無自覚に、察して助け船を出すということをしていただけで、それを止めたら質問をするようになっていったのです。

察して、先回りして、無自覚に助け船を出すというのをやめてみませんか?

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この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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