私に「課題の分離」を3年間伝え続けてくれたひと:話を受け入れられるときがいつなのか、誰にもわからない

こんにちは。産業医・伝え方コーチの本間季里です。限りあるエネルギーを本当に大切なことに使うためのコツをお伝えしています。中心はコミュニケーションや上手な時間管理・習慣化。

特にコミュニケーションでは、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴うなかでも協調していくための伝え方のコツをご提案しています。「頭でわかった」ではなく、実際に身につき日常で使えることを目指します。

 昔の私が良かれと思ってやっていたこと

仕事の場での昔の私と言えば、後輩の仕事であっても彼らの先回りをしてアレコレと指示を出す人間でした。例えば、ある後輩が消耗品の担当だとすると、その消耗品が少なくなっていると、本人が気づいているかいないかも確かめずに、「消耗品が少なくなっているから補充お願いね」「XXの確認を忘れないでね」。ある意味、口うるさい先輩でした。恥ずかしい話ですが、自分ではよく気がつく面倒見が良い先輩のつもりでいたのです。

 知人のアドバイス

ある日、知人と話しているときに、「うちの後輩は、きめ細かく見ていないと仕事の漏れが多くて」と私が言ったのを皮切りに
知人:あなたが指示をしなかったら、どうなるのですか?
私:そりゃあ、仕事に支障がでると思います。
知人:あなたの仕事に支障が出るのですか?
私:いえ、私は先のことまで見越して自分で準備するので大丈夫ですよ。
知人:ならば、しばらく声をかけないで様子を見てみたらどうでしょう?
私:でも、それをしたら、仕事に支障が出ますよ。
知人:でも、それはその後輩が自分で失敗をして改善をしていくということではないのでしょうか?あなたもそうやって成長してきたのではないですか?

ここまで話して私はやっと、「相手の領分にまで口を挟んでいたのだ」ということに気がついたのでした。そのことを知人に伝えると、知人は「実はこれまで3年ほど、時々その話はしていたんですけどね。あなたに伝わるタイミングが今日だったのですね。」と言われました。

 知人が伝えたかった「課題の分離」

知人が伝えたかったのは、自分の課題と相手の課題を切り分ける、課題の分離ということでした。

課題の分離とは、アドラー心理学で出てくる重要な柱の一つです。アドラーは「人の悩みは100%人間関係」と言っています。そのとおりですよね。その悩みから脱却するために必要なこととして「課題の分離」が挙げられています。

私と相手の課題の分離って何?と思いますよね。簡単に言うと、「自分が解決すること」「あいてが解決すること」を常に明確にするということです。

アドラー心理学に造詣が深い岸見一郎さんは、「勉強しない子供になんて言ったら良いでしょう」という親御さんに、「勉強しないで将来困るとしたら、それは親が困るのではなくて、困るのは子ども自身。だから親としては「勉強をしたほうが良いと私は良いと思うけれど、君はどう思う?」と意見は伝え、それでも子ども自身が「勉強しない」を選択するならその選択を尊重する、ということを言っています。

勉強をすることもしないことも、その結果を引き受けるのは子ども自身なのだから、どんな結果であっても引き受ける力があると子ども自身を信じるということ。

ただし、親は親として自分の意見を伝え続けることは構いません。

 課題の分離の種はそこら中に転がっている

あなたと相手の間の課題というと「そんなものあるのかな?」と感じるかもしれませんが、例えば職場で上司が部下に資料の作成を依頼するという場面はたくさんありますよね。

顧客が要望していることが全然盛り込まれていない、どうしても書いておかねばならないことが抜けているという部分は指摘をするにしても、よく見かけるのが、やり方にくどくどと口を挟むとか、逆に「考えてやって」と言いながら途中で見せられた資料に「だめだね。どこがだめか自分で考えればわかるでしょう」と突き放す場面です。

どちらも上司が上から目線であり、相手の領域にズカズカと入り込み、相手のやり方を尊重していません。これでは部下は成長するどころか「そんなこと言うなら自分がやれよ!」とふてくされるか、指示待ち人間になって成長どこではなくなります。

上司も自分の力で試行錯誤してここまで成長してきたはず。ならば、部下の力を信じて、裁量の範囲で力を発揮してもらいましょう。あなたは上司として、部下と対等な目線で「ここはこうしたどうかと思うがどうだろう」とリクエストを出せば良いのです。

 翌日から私がしたことと、驚くような後輩の変化

翌日から、自分の方からせっせと声をかけて歩くのを止めてみたら、ほどなく後輩たちが少しずつ生き生きとしてきて、それまでよりもむしろ困り事などを早く相談してくれるようになったのです。その姿を見ていて、いかにそれまで私自身が、彼らのやる気や主体性の芽を摘んでいたか、彼らが私のことをうざい、と思っていたか、思い知ったのでした。

人は、正しい話を伝えれば相手に届くというわけではありません。届くタイミングというものもあるんだな、ということを身にしみて感じました。だからこそ、一度や二度伝えて諦めるのではなく、時折伝えてみる、ということが大切です。今日は響いてなさそうだな、と思ったらその日はさっさと引っ込めて、次の機会を待つ、そんなふうにゆるく気長に考えてみることも大切、と自分の経験から肝に銘じています。

文章だけではわかりにくいかもしれません。ドラマで、わたしが「ああ、これって課題の分離ができているなあ」と感じたことをまとめた記事も是非参考にどうぞ。
https://kiri3.com/archives/1144

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この記事を書いた人

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本間 季里

産業医、伝え方コーチ、ストレングス・コーチ

大学卒業後、小児科医・免疫学の基礎研究者を経て、2017年より、世代の違い・価値観の違い、利害の対立など、葛藤や緊張を伴う難しい関係性のなかで、それでも妥協点を見つけて協調していくための伝え方を提案し、個人と組織の両方にアプローチできる産業医・伝え方コーチとして活動中。

セッション数は7年間でのべ3000回以上、これまで300名を超える方々に伝え方の講座や研修を提供し、満足度が90%以上です。

資格:医師・医学博士・日本医師会認定産業医
NPO法人アサーティブジャパン会員トレーナー

Gallup認定ストレングス・コーチ

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